社長の理想を見える化する管理会計

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【コーポレートブランド経営篇】 第3章 ブランドを経営に実装する 第7回 ブランド・プロミスをつくる ~顧客に何を約束し、何を絶対に裏切らないのか~

はじめに

前回までは、経営理念を起点として、自社の強みや独自性を明らかにし、「誰に、どのような会社だと思われたいのか」を考えてきました。

しかし、ブランドの方向性を言葉にしただけでは、顧客から選ばれる会社にはなれません。

大切なのは、そのブランドを日々の事業活動へ落とし込み、顧客に対して一貫した価値を提供し続けることです。

そこで重要になるのが、「ブランド・プロミス」という考え方です。

 

ブランド・プロミスとは何か

ブランド・プロミスとは、企業が顧客に対して約束する価値のことです。

言い換えれば、

「私たちは、お客様にこの価値を必ず提供します」
「この会社を選んでいただいた以上、これだけは絶対に裏切りません」

という企業としての明確な約束です。

ブランドという言葉から、ロゴや広告、キャッチコピーを思い浮かべる人も多いでしょう。

しかし、ブランド・プロミスは、宣伝のための美しい言葉ではありません。

商品開発、接客、営業、品質管理、採用、教育など、社員が日々の仕事で判断するときの基準となるものです。

たとえば、「安心を提供します」と掲げている会社が、問い合わせへの対応を後回しにしていたら、その約束は守られていません。

「高品質を追求します」と言いながら、価格を下げるために品質基準を簡単に変更すれば、顧客の期待を裏切ることになります。

ブランドは、会社が発信した言葉によってつくられるのではありません。

会社が何を約束し、その約束をどれだけ守り続けたかによってつくられるのです。

 

抽象的な言葉では行動につながらない

多くの企業が、「高品質」「顧客第一」「安心と信頼」「地域社会への貢献」といった言葉を掲げています。

これらの考え方自体が悪いわけではありません。

しかし、抽象的な言葉だけでは、社員によって受け取り方が異なります。

たとえば「顧客第一」と言っても、現場ではさまざまな判断が必要になります。

顧客から急な依頼を受けたとき、どこまで対応するのか。
値引きを求められたとき、応じるべきなのか。
納期を優先するために、品質基準を下げてもよいのか。
顧客の要望が、会社の理念に反する場合はどうするのか。

こうした場面で、「顧客第一」という言葉だけでは、具体的な判断ができません。

ブランド・プロミスには、社員が迷ったときに、

「この会社なら、どちらを選ぶべきか」

を判断できる具体性が必要なのです。

 

ブランド・プロミスをつくる三つの視点

ブランド・プロミスをつくる際には、次の三つの視点から考える必要があります。

一つ目は、「顧客が本当に求めている価値」です。

顧客が求めているのは、商品そのものだけではありません。

その商品やサービスを通じて、不安を解消したい、失敗を避けたい、時間を節約したい、安心して任せたい、自分らしい選択をしたいと考えています。

表面的な要望だけでなく、その奥にある感情や期待まで理解することが重要です。

二つ目は、「自社だから提供できる価値」です。

競合他社も同じように約束できる内容では、自社を選ぶ理由にはなりません。

これまで蓄積してきた技術や経験、独自の仕組み、社員の姿勢、企業文化などを振り返り、

「自社だからこそ、継続して提供できる価値は何か」

を明らかにします。

三つ目は、「どのような状況でも守り抜ける約束」です。

聞こえのよい言葉であっても、実行できなければ意味がありません。

ブランド・プロミスは、景気が悪いときや業務が忙しいとき、利益が厳しいときにも守る覚悟が必要です。

都合のよいときだけ守られる約束は、約束とは呼べません。

顧客の期待、自社の強み、そして守り抜く覚悟。

この三つが重なるところに、自社らしいブランド・プロミスが生まれます。

 

具体的な行動へ落とし込む

ブランド・プロミスをつくったら、次に行うべきことは、部門ごとの具体的な行動へ落とし込むことです。

たとえば、

「お客様の不安を残さない」

というブランド・プロミスを掲げたとします。

この約束を実現するためには、営業部門では「専門用語を使わず、顧客が理解できるまで説明する」、顧客対応部門では「問い合わせに当日中に一次回答する」、製造部門では「品質上の懸念を発見した場合は出荷を止める」といった行動基準が考えられます。

つまり、ブランド・プロミスは全社共通の約束であり、それを実現する行動は部門や職種によって異なるのです。

ここまで具体化されて初めて、ブランドは現場で機能するようになります。

 

できることと、やらないことを明確にする

ブランド・プロミスを決めることは、すべての顧客要望に応えることではありません。

むしろ、「何をしないのか」を明確にすることでもあります。

品質を約束する会社であれば、無理な値下げによって品質を落としてはいけません。

誠実さを約束する会社であれば、売上を優先して顧客に不利な情報を隠してはいけません。

迅速な対応を約束する会社であれば、社内の都合を理由に顧客を長時間待たせてはいけません。

何を優先し、何を断るのかが明確になるほど、会社の判断には一貫性が生まれます。

すべての人に好かれようとするのではなく、自社が約束した価値を必要とする顧客に対して、その約束を徹底して守ることが重要です。

 

約束を守れているか、数字で確かめる

ブランド・プロミスは、掲げるだけで終わらせてはいけません。

実際に守られているかを確認する仕組みが必要です。

たとえば、「迅速な対応」を約束するのであれば、問い合わせへの初回回答時間や納期遵守率が指標になります。

「高品質」を約束するのであれば、不良率、返品率、再作業率、顧客からのクレーム件数などを測定します。

「顧客に寄り添うこと」を約束するのであれば、継続率、紹介率、顧客満足度、解約理由などを確認する必要があります。

ここで管理会計の考え方が役立ちます。

ブランド・プロミスを具体的な行動へ落とし込み、その実行度をKPIで測定し、結果を検証して改善する。

ブランドを感覚やイメージだけで管理するのではなく、経営の仕組みとして運用するのです。

ただし、数字を達成すること自体が目的になってはいけません。

問い合わせ時間を短縮するために、内容の薄い回答を返していては、本来の約束から外れてしまいます。

数値はあくまでも、顧客への約束を守れているかを確認するための手段です。

数字の背景にある顧客体験まで見なければなりません。

 

ブランドとは、守り続けた約束の蓄積である

ブランド・プロミスをつくるうえで、最も重要なのは、格好のよい言葉を考えることではありません。

顧客に何を約束するのか。
その約束を、社員が日々の判断に使えるか。
そして、会社として守り続ける覚悟があるか。

この三点を明確にすることです。

顧客は、企業が掲げている言葉だけを見ているわけではありません。

実際に受けたサービス、社員の対応、商品の品質、問題が起きたときの姿勢を通じて、「この会社は信頼できるか」を判断しています。

ブランドとは、企業が一方的につくるイメージではありません。

顧客との約束を守り続けた結果として、顧客の心の中に形成される信頼です。

ブランド・プロミスは、その信頼を築くための出発点です。

「私たちは、顧客に何を約束するのか」
「どのような状況でも、絶対に裏切らないものは何か」

この問いに対する明確な答えが、ブランドを経営へ実装する第一歩になるのです。

 

次回予告

次回は、第8回 社員の行動がブランドをつくる

~ブランドを壊すのも、育てるのも現場である~

 

顧客が会社を評価するのは、広告を見たときだけではありません。

電話対応、接客、商談、納品、アフターフォロー、クレーム対応など、社員とのあらゆつ接点を通じて、その会社を評価します。

ブランドの価値を社員の行動基準へ落とし込む方法と、単なる理念教育との違いを取り上げます。