
はじめに
前回までは、経営理念を起点として、自社の強みや独自性を明らかにし、「誰に、どのような会社だと思われたいのか」を考えてきました。
しかし、ブランドの方向性を言葉にしただけでは、顧客から選ばれる会社にはなれません。
大切なのは、そのブランドを日々の事業活動へ落とし込み、顧客に対して一貫した価値を提供し続けることです。
そこで重要になるのが、「ブランド・プロミス」という考え方です。
ブランド・プロミスとは何か
ブランド・プロミスとは、企業が顧客に対して約束する価値のことです。
言い換えれば、
「私たちは、お客様にこの価値を必ず提供します」
「この会社を選んでいただいた以上、これだけは絶対に裏切りません」
という企業としての明確な約束です。
ブランドという言葉から、ロゴや広告、キャッチコピーを思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、ブランド・プロミスは、宣伝のための美しい言葉ではありません。
商品開発、接客、営業、品質管理、採用、教育など、社員が日々の仕事で判断するときの基準となるものです。
たとえば、「安心を提供します」と掲げている会社が、問い合わせへの対応を後回しにしていたら、その約束は守られていません。
「高品質を追求します」と言いながら、価格を下げるために品質基準を簡単に変更すれば、顧客の期待を裏切ることになります。
ブランドは、会社が発信した言葉によってつくられるのではありません。
会社が何を約束し、その約束をどれだけ守り続けたかによってつくられるのです。
抽象的な言葉では行動につながらない
多くの企業が、「高品質」「顧客第一」「安心と信頼」「地域社会への貢献」といった言葉を掲げています。
これらの考え方自体が悪いわけではありません。
しかし、抽象的な言葉だけでは、社員によって受け取り方が異なります。
たとえば「顧客第一」と言っても、現場ではさまざまな判断が必要になります。
顧客から急な依頼を受けたとき、どこまで対応するのか。
値引きを求められたとき、応じるべきなのか。
納期を優先するために、品質基準を下げてもよいのか。
顧客の要望が、会社の理念に反する場合はどうするのか。
こうした場面で、「顧客第一」という言葉だけでは、具体的な判断ができません。
ブランド・プロミスには、社員が迷ったときに、
「この会社なら、どちらを選ぶべきか」
を判断できる具体性が必要なのです。
ブランド・プロミスをつくる三つの視点
ブランド・プロミスをつくる際には、次の三つの視点から考える必要があります。
一つ目は、「顧客が本当に求めている価値」です。
顧客が求めているのは、商品そのものだけではありません。
その商品やサービスを通じて、不安を解消したい、失敗を避けたい、時間を節約したい、安心して任せたい、自分らしい選択をしたいと考えています。
表面的な要望だけでなく、その奥にある感情や期待まで理解することが重要です。
二つ目は、「自社だから提供できる価値」です。
競合他社も同じように約束できる内容では、自社を選ぶ理由にはなりません。
これまで蓄積してきた技術や経験、独自の仕組み、社員の姿勢、企業文化などを振り返り、
「自社だからこそ、継続して提供できる価値は何か」
を明らかにします。
三つ目は、「どのような状況でも守り抜ける約束」です。
聞こえのよい言葉であっても、実行できなければ意味がありません。
ブランド・プロミスは、景気が悪いときや業務が忙しいとき、利益が厳しいときにも守る覚悟が必要です。
都合のよいときだけ守られる約束は、約束とは呼べません。
顧客の期待、自社の強み、そして守り抜く覚悟。
この三つが重なるところに、自社らしいブランド・プロミスが生まれます。
具体的な行動へ落とし込む
ブランド・プロミスをつくったら、次に行うべきことは、部門ごとの具体的な行動へ落とし込むことです。
たとえば、
「お客様の不安を残さない」
というブランド・プロミスを掲げたとします。
この約束を実現するためには、営業部門では「専門用語を使わず、顧客が理解できるまで説明する」、顧客対応部門では「問い合わせに当日中に一次回答する」、製造部門では「品質上の懸念を発見した場合は出荷を止める」といった行動基準が考えられます。
つまり、ブランド・プロミスは全社共通の約束であり、それを実現する行動は部門や職種によって異なるのです。
ここまで具体化されて初めて、ブランドは現場で機能するようになります。
できることと、やらないことを明確にする
ブランド・プロミスを決めることは、すべての顧客要望に応えることではありません。
むしろ、「何をしないのか」を明確にすることでもあります。
品質を約束する会社であれば、無理な値下げによって品質を落としてはいけません。
誠実さを約束する会社であれば、売上を優先して顧客に不利な情報を隠してはいけません。
迅速な対応を約束する会社であれば、社内の都合を理由に顧客を長時間待たせてはいけません。
何を優先し、何を断るのかが明確になるほど、会社の判断には一貫性が生まれます。
すべての人に好かれようとするのではなく、自社が約束した価値を必要とする顧客に対して、その約束を徹底して守ることが重要です。
約束を守れているか、数字で確かめる
ブランド・プロミスは、掲げるだけで終わらせてはいけません。
実際に守られているかを確認する仕組みが必要です。
たとえば、「迅速な対応」を約束するのであれば、問い合わせへの初回回答時間や納期遵守率が指標になります。
「高品質」を約束するのであれば、不良率、返品率、再作業率、顧客からのクレーム件数などを測定します。
「顧客に寄り添うこと」を約束するのであれば、継続率、紹介率、顧客満足度、解約理由などを確認する必要があります。
ここで管理会計の考え方が役立ちます。
ブランド・プロミスを具体的な行動へ落とし込み、その実行度をKPIで測定し、結果を検証して改善する。
ブランドを感覚やイメージだけで管理するのではなく、経営の仕組みとして運用するのです。
ただし、数字を達成すること自体が目的になってはいけません。
問い合わせ時間を短縮するために、内容の薄い回答を返していては、本来の約束から外れてしまいます。
数値はあくまでも、顧客への約束を守れているかを確認するための手段です。
数字の背景にある顧客体験まで見なければなりません。
ブランドとは、守り続けた約束の蓄積である
ブランド・プロミスをつくるうえで、最も重要なのは、格好のよい言葉を考えることではありません。
顧客に何を約束するのか。
その約束を、社員が日々の判断に使えるか。
そして、会社として守り続ける覚悟があるか。
この三点を明確にすることです。
顧客は、企業が掲げている言葉だけを見ているわけではありません。
実際に受けたサービス、社員の対応、商品の品質、問題が起きたときの姿勢を通じて、「この会社は信頼できるか」を判断しています。
ブランドとは、企業が一方的につくるイメージではありません。
顧客との約束を守り続けた結果として、顧客の心の中に形成される信頼です。
ブランド・プロミスは、その信頼を築くための出発点です。
「私たちは、顧客に何を約束するのか」
「どのような状況でも、絶対に裏切らないものは何か」
この問いに対する明確な答えが、ブランドを経営へ実装する第一歩になるのです。
次回予告
次回は、第8回 社員の行動がブランドをつくる
~ブランドを壊すのも、育てるのも現場である~
顧客が会社を評価するのは、広告を見たときだけではありません。
電話対応、接客、商談、納品、アフターフォロー、クレーム対応など、社員とのあらゆつ接点を通じて、その会社を評価します。
ブランドの価値を社員の行動基準へ落とし込む方法と、単なる理念教育との違いを取り上げます。
