社長の理想を見える化する管理会計

赤字・資金繰り・組織づくりに悩む中小企業経営者の皆様へ。管理会計を使って、会社の数字と社員の行動を改善する方法を実務事例とともに解説します。売上だけに頼らず、粗利益・資金繰り・組織力を高める経営改善ブログ

中小企業の業務改善・生産性向上実践篇 ~人を減らすのではなく、付加価値を生み出す仕事へ変える~ 第3章 改善を仕組みに変える 第9回 デジタル化・DXを業務改善に生かす ~システムを導入する前に、業務を整理する~

はじめに

「システムを導入したのに、仕事が楽にならない」

「紙の書類もExcelも残り、かえって入力作業が増えてしまった」

デジタル化を進めたはずなのに、現場の負担が減らない。こうした問題は、ツールを導入するだけでは解決できません。

大切なのは、導入する前に、現在の仕事の流れと経営課題を整理することです。

何に時間がかかっているのか。どこでミスが発生しているのか。どの情報が経営判断に足りないのか。

その課題を明確にして初めて、必要な仕組みが見えてきます。

今回は、デジタル化を業務改善につなげる考え方と、導入効果を管理会計で検証する方法を考えます。


1.デジタル化とDXは、何が違うのか

デジタル化とDXは、関連する言葉ですが、同じ意味ではありません。

デジタル化は、紙や手作業で行っていた仕事をデジタル技術で処理したり、業務の流れを効率化したりする取り組みです。

たとえば、次のような改善が挙げられます。

  • 紙の伝票を電子データにする
  • 手計算していた集計をExcelで行う
  • 電話やFAXによる受注をオンラインで受け付ける
  • 売上データを会計システムへ連携する

一方、DXは、データとデジタル技術を使い、顧客への価値提供や仕事の進め方、組織や事業のあり方を変革し、競争力を高める取り組みです。経済産業省も、システムの導入だけにとどまらず、製品・サービスや業務、組織などの変革を含むものとして位置づけています。

 ※DX:Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)

  英語圏でのTransをXと略す習慣により、「DX」となったとの事です。

 

卸売業で考えてみましょう。

受注をオンライン化し、入力時間を減らすのは、デジタル化による業務改善です。

さらに、蓄積した受注データを使って、顧客ごとの販売傾向を把握し、欠品を防ぐ提案や売場づくりの支援につなげる。こうして顧客との関係や提供するサービスを変えていく取り組みは、DXにつながります。

中小企業では、身近な業務改善から始め、その成果を顧客価値と経営成果へ広げていくことが大切です。


2.紙・Excel・システムは、仕事に合わせて使い分ける

デジタル化を進める際には、すべての仕事を一度にシステムへ移そうとする必要はありません。

紙・Excel・システムには、それぞれ適した使い方があります。

手段

適した使い方

注意する点

紙

現場での簡単な記録、図を交えた打ち合わせ、一時的なメモ

保管・検索・共有や転記に手間がかかる

Excel

試算、予算づくり、個別の分析、業務手順を固める段階の管理

ファイルの乱立、数式の誤り、最新版の混乱が起こりやすい

システム

継続的に発生する大量の処理、複数人での情報共有、履歴や権限の管理

導入・運用費用がかかり、業務との適合を確認する必要がある

たとえば、新しい採算管理の方法を検討する段階では、Excelで試すほうが柔軟に修正できます。

その方法が定着し、毎月大量のデータを扱うようになったら、システムとの連携や自動集計を検討する。この順番なら、必要な機能も明確になります。

ただし、紙に書いた内容をExcelへ入力し、さらにシステムへ入力している場合は、見直しが必要です。

使い分けの基準は、「慣れているか」だけでなく、「仕事全体の手間が減るか」です。


3.二重入力をなくすには、情報の流れを整理する

デジタル化で優先して見直したいのが、同じ情報を何度も入力する仕事です。

たとえば、受注した内容を、

  1. 受注台帳へ入力する
  2. 配送用のExcelへ転記する
  3. 売上システムへ再入力する
  4. 請求書作成時に確認する

という流れで処理しているとします。

それぞれの担当者が正確に作業していても、転記のたびに時間がかかり、間違いが入り込む機会も増えます。

ここで考えたいのは、**「一度入力した情報を、後の仕事で利用できないか」**ということです。

そのためには、ツールを選ぶ前に、次の点を整理します。

  • 最初に情報を入力する場所はどこか
  • 正式な情報として扱うデータはどれか
  • 商品名・商品コード・顧客名・数量の単位は統一されているか
  • 変更や訂正は誰が、どこで行うか
  • 後工程で本当に必要な項目は何か

同じ商品でも、部署ごとに名称や単位が違えば、データをつないでも確認作業が残ります。

二重入力をなくすには、システムの連携とともに、情報のルールをそろえる必要があります。

また、確認のためだけに残している台帳や帳票については、役割を見直しましょう。入力先を増やすより、元のデータを必要な人が確認できる仕組みのほうが効率的な場合があります。


4.自動化する前に、その仕事が必要かを考える

繰り返し発生し、処理のルールが明確な業務は、自動化の候補になります。

たとえば、売上の集計、定型帳票の作成、データの転記、一定の条件に基づく通知などです。

ただし、現在の仕事をそのまま自動化すればよいとは限りません。

毎週作っているものの、誰も見ていない報告書。その報告書の作成を自動化する前に、作成自体が必要なのかを確認するべきです。

検討する順番は、次のとおりです。

  1. 必要のない仕事をなくす
  2. 重複する作業や過剰な確認を減らす
  3. 手順と判断基準を整理する
  4. 繰り返し処理する部分を自動化する

例外処理が多く、担当者ごとに判断が違う業務は、先にルールを整理します。

また、顧客との交渉や社員への指導など、人の判断や対話が重要な仕事では、準備や記録を効率化し、人が向き合う時間を確保する使い方が有効です。

自動化の目的は、社員の時間を、より付加価値の高い仕事へ振り向けることです。


5.システム導入が失敗する理由

システム導入が期待どおりに進まない場合、機能の不足だけが原因とは限りません。

① 解決したい課題が曖昧なまま導入する

「他社も使っている」「便利そうだ」という理由だけでは、導入後に何を評価すればよいか分かりません。

「受注入力の時間を減らす」「在庫差異を減らす」「月次損益を早く把握する」など、目的を具体化する必要があります。

② 現在の業務を整理せず、そのまま移す

重複した承認や不要な帳票までシステム化すると、複雑な仕事がそのまま残ります。

導入前の業務整理が、導入後の使いやすさを左右します。

③ 現場の使い方を確認していない

経営者や担当者だけで選定すると、実際に使う社員にとって入力しづらい仕組みになることがあります。

少人数で試し、通常の処理だけでなく、返品・訂正・急な変更なども確認することが大切です。

④ 導入後の責任者と運用ルールが決まっていない

商品情報を更新する人、問い合わせに対応する人、誤ったデータを修正する人が曖昧だと、利用が定着しません。

操作説明だけでなく、日々の運用体制まで整える必要があります。

⑤ 紙・Excel・新システムが併存し続ける

移行直後の照合は必要ですが、以前の作業をいつまでも残すと、現場の負担が増えます。

どの条件を満たしたら旧業務を終了するのかを、あらかじめ決めておきましょう。

システム導入は、稼働した時点ではなく、仕事が改善され、その状態が定着して初めて成果になります。


6.導入効果を管理会計で測定する

導入効果を測るには、導入前の状態を記録しておくことが必要です。

「便利になった気がする」だけでは、費用に見合う成果が出ているか判断できません。

目的に合わせて、次のような指標を選びます。

改善の目的

測定する指標の例

入力負担を減らす

1件当たりの処理時間、入力回数

ミスを減らす

誤入力率、訂正件数、やり直し時間

情報を早く把握する

月次決算に要する日数、集計時間

在庫管理を改善する

在庫差異、欠品率、廃棄損失

付加価値の高い仕事を増やす

顧客への提案件数、提案から生まれた粗利益

処理件数が増減する業務では、総時間だけでなく、1件当たりの時間も比較します。繁忙期と閑散期の違いにも注意が必要です。

削減時間の評価額と、実際の利益改善を分ける

仮に、ある入力作業が月40時間から15時間に減ったとします。

削減時間は月25時間です。人件費の時間単価を2,000円とすると、

25時間 × 2,000円 = 月50,000円

となります。

これは、削減した時間を金額に置き換えた評価額です。給与支出が変わらなければ、そのまま月50,000円の利益増加になるわけではありません。

実際の経営成果としては、次の変化を確認します。

  • 残業代や外注費が減った
  • ミスによる損失が減った
  • 人員を増やさず、増加した受注に対応できた
  • 空いた時間を提案活動へ回し、粗利益が増えた

一方で、システムには、初期費用だけでなく、利用料、保守費用、教育時間、データ移行や運用管理の負担も発生します。

継続的な効果を評価する際には、確認できた粗利益の増加や支出の削減から、継続的な運用費用を差し引くことが基本になります。初期費用の回収は、別途、実際の資金収支で検討します。

同じ効果を、時間削減額と残業代削減額の両方で重複計上しないことも大切です。

管理会計で確認したいのは、システムの利用状況だけではありません。

減らした手間と増えた時間が、利益・資金・顧客価値にどうつながったかです。


7.小さく導入し、効果を確かめて広げる

中小企業のデジタル化は、一つの業務で成果を確かめながら進めると、課題を修正しやすくなります。

進め方は、次の順番です。

  1. 経営課題を一つ選ぶ
  2. 対象業務の流れを見える化する
  3. 不要な作業と重複を減らす
  4. 改善目標と測定方法を決める
  5. 限定した範囲で導入する
  6. 効果と現場の負担を確認する
  7. 手順を修正して対象を広げる

たとえば、「受注から売上計上までの二重入力を減らす」というテーマなら、入力時間や訂正件数を測定できます。

成果が確認できれば、請求や在庫管理への連携を検討する。こうして、一つの改善を次の改善へつなげます。

経営者は目的と優先順位を示し、管理職は進捗と効果を確認し、現場社員は実際の使い方と改善点を伝える。

前回までに考えてきた、改善を組織全体で進める仕組みが、デジタル化でも必要になります。


おわりに

デジタル化を進める出発点は、経営課題と仕事の流れを整理することです。

同じ情報を何度も入力していないか。不要な帳票を作り続けていないか。社員の時間を、どの仕事へ振り向けたいのか。

その問いに答えてから、必要なツールを選びます。

そして導入後は、時間やミスが減ったか、その成果が利益や顧客価値につながったかを確かめます。

業務を整理し、デジタル技術で改善し、管理会計で成果を検証する。

この積み重ねが、社員の負担を減らしながら、会社の付加価値と競争力を高める道になります。


次回予告

次回は、第4章 生産性を数字で検証する

第10回 業務改善の成果をKPIで測る

~改善を「やったつもり」で終わらせない~

改善活動の回数ではなく、業務や経営がどのように変化したかを測るKPIの設計について考えます。