社長の理想を見える化する管理会計

赤字・資金繰り・組織づくりに悩む中小企業経営者の皆様へ。管理会計を使って、会社の数字と社員の行動を改善する方法を実務事例とともに解説します。売上だけに頼らず、粗利益・資金繰り・組織力を高める経営改善ブログ

中小企業の業務改善・生産性向上実践篇 ~人を減らすのではなく、付加価値を生み出す仕事へ変える~ 第4章 生産性を数字で検証する 第12回 業務改善を継続する会社をつくる ~改善を一時的な活動で終わらせない~

はじめに

「改善活動を始めたときは盛り上がったが、いつの間にか元に戻ってしまった」

「担当者が変わったら、改善した方法が引き継がれていなかった」

こうした経験はないでしょうか。

業務改善は、一度取り組めば完成するものではありません。顧客の要望も、仕事の量も、社員の構成も変わります。以前は適切だった方法が、今の会社には合わなくなることもあります。

だからこそ、必要なのは、仕事の変化を捉え、改善し、成果を確かめ、次の仕事に反映する仕組みです。

最終回では、業務改善を特別な活動から日常の経営へ組み込み、会社が学び続けるための方法を考えます。


1.改善前と改善後を、同じ条件で比較する

改善を続けるためには、取り組みの成果を確かめる必要があります。

「以前より楽になった」「仕事が早くなった」という現場の実感は大切です。しかし、それだけでは、効果の大きさや継続性を判断しにくくなります。

そこで、改善前と改善後を数字で比較します。

たとえば、受注入力の手順を見直した場合、次のような項目を確認します。

確認項目

改善前

改善後

1件当たりの処理時間

10分

7分

月間処理件数

600件

600件

月間作業時間

100時間

70時間

月間入力ミス件数

12件

4件

※数値は説明用の例です。

この例では、月間30時間の余力が生まれ、入力ミスも減っています。

ただし、比較するときには、処理件数、仕事の難易度、担当人数などの違いにも目を向けなければなりません。仕事量が減っただけなのに、改善によって作業時間が短くなったと判断してしまうことがあるからです。

また、時間を短縮しても、確認漏れや顧客からの苦情が増えれば、成果を十分に得たとはいえません。

時間・品質・顧客への影響を組み合わせて確認することが、改善を正しく評価する出発点です。


2.PDCAを、日常の仕事に組み込む

PDCAとは、計画し、実行し、結果を確認し、次の行動へつなげる流れです。

大切なのは、言葉を知ることよりも、実際の仕事の中でこの流れを回すことです。

段階

決めること・行うこと

Plan:計画

困っていること、基準値、目標、担当者、期限を決める

Do:実行

改善策を試し、実施内容と結果を記録する

Check:確認

目標との差と、品質・負担への影響を確かめる

Act:見直し

継続、修正、中止を判断し、有効な方法を標準化する

中小企業では、最初から大きな改善計画をつくるよりも、対象を絞って試すほうが進めやすい場合があります。

たとえば、「受注業務全体を改革する」ではなく、「電話注文を受けた後の転記を1回減らす」といった取り組みです。

小さく試せば、結果を早く確認でき、問題があっても修正しやすくなります。

そして、期待した結果が出なかった場合も、そこで終わりにしないことです。方法が合わなかったのか、実施が不十分だったのか、そもそも原因の見立てが違ったのかを確かめます。

成果が出た理由も、出なかった理由も、次の改善に使える情報になります。


3.改善会議は、次の行動を決める場にする

改善会議を開いていても、報告だけで終わってしまえば、仕事は変わりません。

「検討します」「引き続き取り組みます」という言葉だけでは、誰が何をするのかが曖昧なままです。

改善会議では、次の順番で話を進めると、行動につながりやすくなります。

  1. 前回決めたことを実施したか確認する
  2. 改善前と改善後の数字を確認する
  3. うまくいった理由、進まなかった理由を整理する
  4. 続けること、変えること、やめることを決める
  5. 次の担当者と期限を決める

たとえば、月1回、30分程度の会議から始めてもよいでしょう。取り上げるテーマを絞り、既存の業務会議に組み込む方法もあります。

会議で扱う資料も、複雑にする必要はありません。

改善テーマ・改善前の数値・目標・実施内容・結果・次の対応が1枚で分かれば、十分に議論できます。

経営者や管理職には、現場だけでは解決できない問題を判断する役割があります。部門間の調整、設備投資、業務の優先順位などを決め、改善が止まっている原因を取り除くことが必要です。

改善会議そのものが社員の負担にならないよう、会議の時間と成果も見直していきましょう。


4.成功事例は、「再現できる形」で共有する

ある社員が工夫して成果を上げても、その方法が本人だけのものになっていれば、会社全体の力にはなりません。

成功事例を共有するときには、「頑張って改善しました」という紹介だけで終わらせず、他の社員が試せる情報を残します。

  • どのような問題があったのか
  • 何を変えたのか
  • どのような条件で効果が出たのか
  • 数字がどれだけ変わったのか
  • 実施するときの注意点は何か

たとえば、倉庫の配置変更で商品を探す時間が減ったなら、変更前後の写真や配置図を共有します。確認漏れを減らしたなら、実際に使ったチェックリストを紹介します。

ただし、別の店舗や部門でも、同じ方法がそのまま使えるとは限りません。仕事量や設備、顧客の違いを踏まえ、現場に合わせて調整する必要があります。

また、成功した結果だけでなく、試して分かった課題も共有しましょう。

一人の経験を、会社全体の学びに変えること。

それが、改善の積み重ねを会社の財産にする方法です。


5.改善した方法を、標準業務に反映する

効果が確認できた改善は、日常の仕事の方法へ反映します。

手順書が古いままなら、新しく入った社員は以前の方法を覚えてしまいます。口頭で伝えるだけでは、担当者が変わったときに元へ戻ることもあります。

改善したときには、関連する手順書、チェックリスト、帳票、入力ルールなどを更新しましょう。

その際には、次の点を明確にします。

  • 変更した内容と理由
  • 新しい方法を使い始める日
  • 更新の担当者
  • 関係者への説明方法
  • 古い資料の取り扱い

更新した資料は、社員がすぐに確認できる場所へ置きます。最新版がどれか分からない状態では、標準化は機能しません。

そして、標準業務は、一度決めたら変えてはいけないものではありません。

現時点で有効な方法を共有し、さらによい方法が見つかれば更新する。

この考え方があってこそ、標準化と継続的な改善がつながります。


6.管理会計で、改善が経営成果につながったかを確かめる

現場の仕事が変わったことと、会社の利益が増えたことは、分けて確認する必要があります。

たとえば、先ほどの例では月間30時間の余力が生まれました。仮に1時間当たりの人件費を2,000円とすれば、時間を人件費相当額に換算すると月6万円になります。

しかし、給与の支払額が変わらなければ、月6万円の経費が実際に減ったわけではありません。

そこで、改善効果を次のように確認します。

効果の種類

確認する内容

実際の費用削減

残業代、外注費、廃棄費用などが減ったか

余力の創出

同じ人数で処理できる仕事が増えたか

粗利益の増加

生まれた時間を提案や販売へ使い、成果が出たか

品質の向上

ミス、返品、手戻りなどが減ったか

生まれた30時間を、顧客への提案や売場改善、新人教育へ振り向ければ、将来の成果につながる可能性があります。ただし、その成果も別途確認しなければなりません。

管理会計では、「現場の変化」と「損益・資金への変化」をつなげて見ることが大切です。

たとえば、月次で次の項目を追います。

  • 総労働時間と残業時間
  • 時間当たり粗利益
  • 廃棄・返品・手戻りに伴う費用
  • 改善に必要な導入費用と維持費用
  • 改善後の利益と資金への影響

システム導入などでは、月々の効果だけでなく、初期費用や運用費も含めて判断します。また、売上が増えていても、市況や季節要因の影響かもしれません。改善による効果を過大に見積もらないことも必要です。

数字は、改善を評価するためだけでなく、次にどこへ時間やお金を使うかを決めるためにあります。


7.改善を企業文化にする

改善が定着する会社では、社員が日常の違和感を口にできます。

「この確認は、二重になっていませんか」

「この帳票は、今も必要でしょうか」

「この方法なら、間違いを減らせそうです」

こうした声を、仕事をよくするための材料として受け止めることが大切です。

提案した社員に、すべての解決責任を負わせてしまうと、次第に声が出なくなります。提案を受けた上司は、必要性を判断し、実行の支援や部門間の調整を行います。

また、結果だけを求めすぎると、社員は失敗しそうなことを試さなくなります。小さく試し、確かめ、修正する行動も評価しましょう。

改善を企業文化にするためには、経営者自身の姿勢も問われます。

現場の手順だけでなく、自分が求めている報告書や会議、承認の方法にも、見直す余地がないかを考える必要があります。

経営者も、管理職も、社員も、自分たちの仕事をよりよくする。

その姿勢を日々の行動に表すことで、改善は会社の習慣になっていきます。


おわりに――改善の先に、どのような会社をつくるのか

以上で本シリーズは終了です。

このシリーズでは、業務の見える化、ムダの削減、標準化、現場の参加、そして数字による検証を考えてきました。

業務改善の目的は、単に仕事を早く終わらせることではありません。

ムダや手戻りを減らし、社員が顧客への提案、品質向上、学習、新しい価値づくりに時間を使えるようにすることです。そして、その変化を利益や資金、社員の成長へつなげることです。

まずは一つの業務について、改善前の数字を記録し、小さく試し、結果を確認してみてください。効果があれば標準業務を更新し、次の改善へ進みます。

「気づく・試す・確かめる・定着させる」

この流れを繰り返す会社は、日常の仕事を通じて学び続けることができます。

人を減らすのではなく、付加価値を生み出す仕事へ変える。

その積み重ねが、社員の成長と、会社の持続的な発展を支えていくのです。


次回予告

次回からは、私達経営者が最も関心が深く、しかも根深いテーマ「儲けるとは何か。そして、いかに会社にお金を残すか…」について考えてみたいと思います。乞うご期待!